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ある絵描きの話



 あるところに 絵描きがいました。
彼が描く絵は いつも身近な人々の心を魅了しました。
彼の絵の源は その時々の気持ちでした。
時に彼は 悲しみと憂いを絵で表しました。
時に彼は 怒りと悔しさを絵で表しました。

 そしてある日ついに一枚の最高傑作が 
たくさんの人々の心を動かす日が訪れました。
そんな彼を人々は「天才だ」と讃えました。
「才能だ」と騒ぎ立てることはあまり好きじゃなかったけれど
彼はまんざらでもありませんでした。
「いつまでも こんな絵が描けたらいい」と
そう願っていました。


 しかし その後の彼のスランプはひどいものでした。
絵を描こうとするたび
「どうやったら 皆に受け入れてもらえるか」ということが
彼の脳裏にはいつもよぎりました。
元々、自分の気持ちを表現したくて絵を描き始めたはずの彼ですから
人の目と自分の意志の狭間で考えが揺らいでしまうことも多々ありました。
その度に何度も何度も手直ししては なんとか形にした作品達は
残念なことに、人々に賞賛される事が少しずつ減っていきました。
「才能の限界か」「似たような作品ばかりだ」
人々はそう噂を始めました。


 彼はもっともっと絵を描きました。
誰にも会わないで ずっと
皆に受け入れてもらえる絵を探し続けました。

 そんな日々の中で彼はとうとう 倒れてしまいました。
過労でした。長い休養をとりましたが、
手には痺れが残ってしまいました。
彼は本来の絵の描き方ができなくなってしまったのです。

 

 彼がリハビリをしている間に
たくさんの友人や弟子が上達して名をしらしめていきました。
過去の栄光にとらわれて悲しむ彼の
小さくなってしまった背中をみて
人々は「あの人はもう終わってしまった人間だ」と嘲りました。


 彼はとうとう絵を描くことをやめてしまいました。
絵描きだったことさえ隠して生きていくことにしたのです。
「この手がもっと動いたら・・・!あの頃に戻れたら・・・!」
突然悲しくなって泣いてしまう夜もありました。

 しかし、少しずつそんな夜は減っていき
やがて、彼は普段から涙をこぼさなくなりました。
どんなにつらいことも、初めの頃の夜の悲しみと比べれば
悲しみにも値しませんでしたから。


 そんなある日 昔好きだった女性が病気にかかったことを知りました。
彼はすぐさま女性の元へ向かいました。女性は彼の姿を見ると、
「私に絵を描いてほしい」と言いました。
 
 彼は古びた画材を取り出して、最初で最後の復帰作を描きました。
「自由に描いていたあの頃の力はもうこの手にはない。
 でもこの人のためにもう一度だけ・・・!」


思えばその絵が初めて彼が本当に誰かを想って書いた作品でした。


 彼の優しさ、温かさ、憂い、そして叫び。それらを纏った作品は 
後に彼女だけでなく人々の心を再び動かすことになりました。


もう誰も彼のことを「終わった人間」はもちろん、「天才」だとも呼びませんでした。
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プロフィール

憂愁少年

Author:憂愁少年
元々作詞作曲の修行をしていたつもりがいつの間にか詩作に励んでいた人です。

まだまだ荒削りですが、じっくりじっくり上手なものが書けるようになりたいです。作風も決まってなく、文章の雰囲気の揺れ幅があるかもしれません

大学生になり活動もゆっくりになりました。

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